熱帯林の種多様性に関するJansen-Connell仮説の実験的検証

  • Mangan SA et al. Negative plant-soil feedback predicts tree-species relative abundance in a tropical forest. Nature 466: 752-755. 5 August 2010

熱帯林における高い種多様性がどのようにして保たれているかという問題は、生態学の中心問題のひとつ。長い間研究が続けられていながら、いまだに解決していない。最近では群集の中立説が注目を集めているが、現実は中立過程だけではないはずだ。
病原体や寄生者の効果を考えたJansen-Connell仮説は魅力的な仮説なのだが、これまでのところ実験的証拠が不十分だった。上記の論文は、この仮説を支持するとても明快な証拠を提示している。きちんと計画された大規模な野外実験にもとづく研究だ。近年の生態学研究の中では、特筆に値する研究だと思う。
病原体や寄生者は世代時間が短いので、親木の遺伝的性質に適応進化すると予測される(この予測を支持する証拠は少なくない)。その結果、親木の近くでは同種の芽生えの成長が悪くなると予測される(この予測についての証拠が不十分だった)。この傾向があれば、同種が更新する頻度が減るので、競争排除が起きずに、多様性が維持される。
上記の論文では、パナマのバロコロラド島(BCI)の森林プロットにおいて、異なる頻度で出現する6種を選び、芽生えを以下の3つの条件で育てて、5か月間の成長を比較した。
(1)無菌化した土
(2)無菌化した土に同種の親木の下の土を混ぜる
(3)無菌化した土に異種の親木の下の土を混ぜる
この実験を、シェードハウス内と野外の両方で行った。結果は見事だ。全種において(2)よりも(3)の場合に成長が良かった。このうち4種で有意差があった。とても面白いのは、負のフィードバックの強さ(同種の土でどれくらい成長が悪くなるか)は、成木の出現頻度と負に相関することだ。つまり、成木の出現頻度がもっとも高いTetragatrisでは成長が微減だが、成木の出現頻度がもっとも低いLacmelleaでは成長がもっとも大きく低下した。他の4種はその中間だ。同じ傾向が、シェードハウス内でも野外でも確認された。また、野外実験において、地上の敵(植食者や葉の病原体)による負のフィードバック効果はほとんど観察されなかった。この結果から、土壌中の敵(おそらく微生物)が、成木の種多様性およびその出現頻度を規定する主要な要因だと著者たちは結論した。
類似の結果はすでに温帯草原の研究で得られていたが、熱帯林でこれだけきれいな結果を出した論文が発表されるとは予想していなかった。すばらしい。