ボトムアップとトップダウン:分野間連携の進め方(矢原)

九大・東大合同シンポ、国際シンポの準備・運営、ご苦労様でした。参加者の感想はどうだったのでしょうか。せめて講演者には、アンケートで感想と今後への意見を聞いてはどうかと思います。
シンポ期間中の討論を通じて、いろいろなことをやっているが全体が見えないという意見を聞きました。私は、トップダウンでリーダーが強力にひっぱるというやり方をあまり好まないので、しばしばこのような印象を与えてしまうのだと思います。
学際的なプロジェクトを成功させるには、ボトムアップ的アプローチとトップダウン的アプローチをうまく組みあわせることが大事だと考えています。4つのコアサイトで、今年一年を通じてボトムアップ的アプローチを進めれば、自ずから具体的な統合の方向性が浮かびあがるでしょう。太湖に流れるチャオシー川では、水質・魚・水草を同時に調査することで、これらの関連が見えてきました。カンボジアの森林では、現存量評価や水文学的観測と、種の多様性調査を同時に進めることで、生態系レベルと種・遺伝子レベルをつなぐ研究ができそうです。
このようなボトムアップ的アプローチの一方で、トップダウン的に共通の目標・プロトコルを設定して、協力して研究を進めることも、もちろん重要です。「アジア保全生態学」の場合、系統樹を利用した遺伝学的な多様性評価が、共通の目標になりそうです。この点では、基調講演で紹介した哺乳類の論文(下記)が、とても参考になると思います。

  • Davies JT et al. 2008. Phylogenetic trees and the future of mammalian conservation. PNAS 105:11556-11563.

この仕事は、世界地図上で、種数の多様性、系統的多様性だけでなく、体の大きさの分散という、形質の多様性を評価している点が、とても良いと思います。このように、遺伝的なアプローチと形質の多様性の研究を組み合わせていくことは、地球規模での環境変化に対する生物の反応を予測するうえでも、また地球規模での生態系や生物進化の基礎研究のうえでも、とても大事だと考えています。この研究プロジェクトのリーダーであるAndy Purvisとは旧知の仲なので、いちど九大に来てもらって、連携をはかりたいですね。なお、関連する以下の論文がScience誌に発表されています。

  • Schipper J et al. 2008. The status of the world's land and marine mammals: diversity, threat and knowledge. Science 322: 225-230.