個体間変異が多様性を維持する(by矢原)

階層ベイズ法を駆使した森林生態学研究で有名なJim Clark博士が、サイエンス2月26日号に下記の論文を発表しました。
Clark JS (2010) Individuals and the Variation Needed for High Species Diversity in Forest Trees. SCIENCE 327:1129-1132.
古典的な競争理論では、種間競争に強いものが勝って、多様性は減ります。ある資源軸で強ければ他の資源軸で弱いというトレードオフがあれば多様性が維持されますが、このようなトレードオフは一般的ではありません。環境の時間変動の下で、ある時期に強い種は別の時期に弱いという負の相関があれば多様性が保たれますが、実際には正の相関があります(良い年にはどの種も成長が良くなる)。そこで中立説に注目が集まっていますが、種の間に違いがあることも事実。この論文では、種の特性の平均値に違いはないが、環境に対する反応の幅に違いがあるというアイデアを検討し、このアイデアが高い種多様性をうまく説明できると結論しています。
種内の変異性を考慮することは間違いなく重要であり、Jim Clarkの上記の論文は的確にこのポイントをついていると思います。ただし、Jim Clarkは、なぜ高い個体間の変異性が保たれるかについては問題にしていません(遺伝的でも非遺伝的でも良いと書いていますが、多くの場合に高い遺伝率が観察されます)。また、種によって環境変動に対する変異の幅が広い場合と狭い場合があります。この違いを説明することも必要。
Jim Clarkの仮説は、中立説に対する有力な代案を提示しています。群集、あるいはメタ群集レベルの仮説としては有力だと思います。しかし、私は群集・メタ群集レベルよりも、もうすこしマクロスケールでの多様性の維持機構を考えるほうが、現実をよりよく説明できるのではないかと考えています。