屋久島でのヤッコソウ調査

はじめまして、GCOE特任助教川口利奈です。

このブログでは、アジア保全生態学GCOEの活動の一部である調査や実習の様子もご紹介する予定です。そこで、今回は本GCOEプログラムのコアサイトの1つである屋久島でおこなっている調査の一例に触れたいと思います。

私は九州大学理学部生態科学研究室の院生の方々と協力して、屋久島でヤッコソウという植物の繁殖生態を調査しています。ヤッコソウ(Mitrastema yamamotoi)はヤッコソウ科ヤッコソウ属の全寄生植物で、シイ類の根に寄生します。その分布域はパプアニューギニアから東南アジア、そして日本に広がっています。日本では徳島県が分布の北限で、高知や宮崎、鹿児島、沖縄などにも生息地があります。

自生地が国や県の天然記念物に指定されるなど、ヤッコソウが希少種として認知されている他地域に比べ、屋久島におけるヤッコソウの生育密度は非常に高く、低標高の照葉樹林の林床にしばしば大集団が見られます。ヤッコソウ(奴草)の名前は、開花期の特異的な形態(写真参照)を「奴」に例えたものです。11月、照葉樹林内のスダジイの根本に、背丈4cmほどの小さな奴たちが姿を現します。奴の腕に当たる鱗片葉の中には多量(数百μl)の蜜がたまります。開花した花ははじめ雄の状態で、帯状の葯から花粉を出します。やがて筒状の雄しべがすっぽりと抜け落ち、雌しべが現れます。この独特の花の形態は、ヤッコソウの送粉(花粉の受け渡し)と種子散布にどのように役立っているのでしょう。

【開花期のヤッコソウ。中央に写っているのが雌期の花で、その左右が雄期の花。手前の地面に落ちているのが抜け落ちた雄しべ。】


私たちヤッコソウ研究班は、昨年11月から誰がヤッコソウの花粉や種子を運んでいるのかを特定する調査を始めています。この時期、屋久島ではヤッコソウの種子散布が終わろうとしていますが、来シーズン以降も詳細な調査を継続して、ヤッコソウの繁殖生態の解明を目指します。豊かな森とそこに住む動物たちに支えられたヤッコソウの生活史を明らかにすることで、多くの人々にわかりやすく屋久島の自然の価値を印象づけられる素材を提供できると考えてます。

ヤッコソウの蜜を目当てにどんな動物たちがやってくるかについては、またの機会にご報告します。
お楽しみに。

(川口)